こんにちは。木地師の辻正尭(つじまさたか)です。
僕は年間350日くらい毎日仕事で椀木地を挽いています。
そこから得た知識から、縦木と横木は何が違うのか、お椀を作るのにどちらが適しているのか、またその理由を今から説明します。

辻椀木地木工芸は「縦木」がメイン

椀木地を作るために使用する木材を荒型(あらかた)といいます。
荒型は、木材をお椀の形に粗く削り出したもので、荒型を轆轤(ろくろ)に接着させカンナで木地を挽いていきます。

荒型に使われる木の種類についてはこちらの記事で紹介させていただきました。

木の種類以外にも荒型には2つ種類があります。
それが「縦木」「横木」です。

昔は横木が多く流通していたといわれており、今でも産地によっては横木をメインに使用している場所も多くあります。
しかし辻椀木地木工芸では縦木をメインに扱っています。ご注文の際に縦木・横木の指定がない場合は「縦木」を使用します。
辻椀木地木工芸は椀木地には縦木が最適と考えているからです。

縦木と横木の違い

縦木・横木とは、原木に対しての木地(荒型)の木取りの仕方をいいます。
原木を輪切りにして年輪に対して平行に木取りしたものを「縦木」、原木を縦にスライスして板状にしたものから木取りしたものを「横木」といいます。
原木に対して横木は横向きに、縦木は縦向き(上向き)に荒型を削り出しています。
昔は漆器といえば横木を使用することが多かったようですが、現在は縦木が多く使われています。

「椀木地には縦木を選ぶ」その理由

縦木のメリット:強度がある。歪み、伸縮が起こりにくい。納品が横木より早い。


縦木のデメリット:大皿やお盆などのに使われる大きい材料が取れない。


縦木は木取りの際に芯を外して取っていくため、必ずロスが出ます。
そのため、古くはロスの出にくいとされる横木が多く使われていました。しかし、現在は椀木地には縦木がよく使われています。

ではなぜ現在「縦木」が椀木地によく使われているかというと、木材をお椀にしたときに横木と比べて縦木のほうが動きにくい(変形しにくい)からです。また、木材として縦木取りの方が強度があり丈夫で割れにくいメリットがあります。
その他にも、横木よりも椀木地材料の荒型の仕入れが早いこと、乾燥時の水分の抜けが良いことで納品時間が横木より短いメリットがあります。
デメリットとしては、原木を輪切りにしたものから木取りするため、大皿などに使われる大きい材料を取るのには向いていないことです。

これらの理由から、お椀や蓋物を作るには「縦木」が適していると言えます。

横木のメリット・デメリット

横木のメリット:1枚の板から最大限に材料が取れる。大きな漆器の材料が取れる。木の種類によっては美しい木目が出る。

横木のデメリット:縦木に比べ動きやすい(歪みやすい)。縁が割れやすい。材料を仕入れるのに時間がかかるため、製品になるまでに縦木より時間がかかる。

横木は原木を縦にスライスしたものから木地取りしています。縦にスライスし板状にすることで、一枚の板から最大限に木地取りできるメリットがあります。
しかし年輪方向に沿わない横木取りは木地そのものが歪みやすく、縦木より長く乾燥時間をとる必要があり、木取りしてから製品になるまでに長く時間がかかります。
また、長く乾燥時間を設けたとしても動く(歪む)ことがあり、縦木と比べ強度が弱く縁が割れやすい特徴があります。昔は漆器に横木を使用することが多かったため、輪島塗などで布着せの技法がとられたのではないかと考えられます。
横木のメリットとしては、1枚の板から最大限に材料が取れるため、木材の数も多く取れますし、大きな木材を木取りすることができます。
また、作るものによっては縦木を使用するより木目が美く見えることも挙げられます。
※一般的には、横木は建築木材や家具材に多く使われています。

縦木と横木の見分け方

縦木取りと横木取りでは、木目の見え方が違うため、特徴を知っていると見分けることができます。

下の図解のように、縦木取りは輪切りにした原木の芯の周りから切り出しているため、縞のような木目になります。

※木取りした木材を上から見た図(お椀を上から見た木目と同じ)

※縦木と横木、それぞれこのような木目の模様が見られます。

縦木の例

「縦木のお椀」を上から見た時の木目

「縦木の皿」を上から見た時の木目​

横木の例

「横木の皿」を上から見た時の木目

このように、縦木と横木は木目の模様の出かたに違いがあるため、木目の模様の特徴を知っていれば誰でも見分けることができます。

縦木が強いわけ

なぜ、横木より縦木の方が「強度」があり、そして「動きにくい」のか。
それは、木取りする時に理由がありました。
縦木は木取りする時、年輪方向に削り出しています。木が育つ方向(木が生える方向)に木取りするため強度が増し、歪みや縮みが起こりにくいのです。
そのためお椀を作るのに適しています。

まとめ

今回は、椀木地を制作する上で使用する荒型(木材)の「縦木」と「横木」の違いについてお伝えしました。

結論:お椀の木地に使用するのに向いているのは縦木。

理由:縦木は横木より強度があり、歪み、伸縮が起こりにくい。材料納品も早い。

そのため、辻椀木地木工芸では椀木地注文を受ける場合は基本的に「縦木」を使用して制作します。
椀木地を注文する時の参考にしてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。