木の特徴 辻椀木地木工芸では、「欅(ケヤキ)」と「はんさ(ミズメザクラ)」という2種類の木材を主に使用しています。また、手に入りにくくなっていますが、「栃(トチ)」も椀木地材として人気があります。木にはそれぞれ特徴があるため、どんな器を制作するかによって木材を選んでいます。 それぞれの木の特徴 ケヤキの特徴 「欅(ケヤキ)」は国産広葉樹の代表と言われています。成長が遅い分狂いが少なく、やや重くて堅く、強度があります。とても材質に優れているため、古くから社寺建築や臼・杵・漆器木地・家具・梁・橋梁・船首尾・車両・彫刻・和太鼓など多岐にわたり使用されてきました。見た目の特徴としては、心材の色がやや赤みがかっていて、木目が美しく、木地に仕上げた時の仕上げ面を磨くと光沢がでます。樹齢の高いケヤキになると「杢(もく)」と呼ばれる美術価値の高い木目が見られ、高価になることもあります。堅い木材のため、様々な漆器に使われていますが、拭き漆などの木目を見せる技法の漆塗りにも頻繁に使われています。またケヤキは、北海道を除く本州、四国、九州と広く生息することから比較的手に入りやすい木材です。 ケヤキの木地 表面 ケヤキの木地 中面 ケヤキのデメリット 漆器は完成後の時間経過や保存環境によって「やせがくる」と言われる現象が起こるのですが、ケヤキはほかの木材よりもその現象が起こりやすいと言われています。その点がデメリットと言えます。 「やせがくる」とは 漆器完成後、年⽉の経過や乾燥などにより、漆器に使われている⽊の⽔分や漆器に塗った漆の⽔分が少しずつ蒸発していくことで漆器の表⾯に「⽊地の⽊⽬がうっすらと浮き出る状態」になることがあります。この現象を「やせがきた」「やせがくる」などといいます。 ケヤキを使ったすべての漆器に必ず起こるわけではないですし、ケヤキに限らずどんな木材でも起こりうる現象です。しかし、ケヤキは木目がはっきりとしている分ほかの木材より「やせがくる」ことが多く、そのため木材として嫌われることもあります。しかし「やせがくる」ことを味ととらえられることもあります。 はんさ(ミズメザクラ)の特徴 「はんさ」は地方によって「水目桜(ミズメザクラ)」または「ミズメ」のなどと呼ばれています。木の特徴や木材としての性質はサクラに似たところがあります。名前にも「サクラ」とついていますが樺の木の種類になります。「アズサ」「ヨグソミネバリ」などという別名もあります。本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、神事に使われる梓弓に用いられる由緒ある木とされています。はんさ(ミズメザクラ)はやや重硬で強度が高く、均質で加工がしやすいため木材として良材としての定評がある木です。寸法安定性が高いため家具材や楽器の部材にも使用されています。※はんさ(ミズメザクラ)と近い性質の同じ樺の木の仲間に「ウダイカンバ」がありますが、「ウダイカンバ」は本州の中部地方意外と北海道に生息します。 はんさ(ミズメザクラ)木地 表面 はんさ(ミズメザクラ)木地 中面 はんさ(ミズメザクラ)は材質として硬く削りやすいのが特徴です。ケヤキと大きく違うところは木目がケヤキほど目立たないところです。木目がきめ細く、木材としては強硬で狂いも少い(動きにくい)ため、精密性が求められる物づくりにおいて重宝されます。木目を見せる必要がない本堅地(ほんがたじ)などの漆器にははんさを使うことも多くあります。その他、はんさ(ミズメザクラ)の用途としては、盆や椀などの漆器木地はもちろんのこと、東北地方などではこけし材料の1つとして使われており、器具の柄、 洋傘の柄、日本傘の頭のろくろ、杓子(しゃくし)、箸、坑具、家具や床材などにも使われています。また、箱根細工の寄木(よせぎ)に白色材としても用いられています。 栃(とち)の特徴 「栃(トチ・トチノキ)」は樹高25m、直径1m程に達する落葉高木の広葉樹です。日本では北海道西南部~九州にかけて1種類のトチノキが自生しています。低山帯の深山溪流沿いのような場所にみられ、水気を好み、適度に湿気のある肥沃な土壌でよく成長します。各地に巨樹が登録されており、日本最大のトチノキは石川県白山市白峰の「太田の大トチノキ」で国の天然記念物にも指定されています。目通り幹周13m、高さ25mの日本一の巨木です。トチノキの花は大きく白く、花の中央は淡い紅色になり大変美しい花を咲かせます。秋になると直径3~5cm程の実をつけ、果実が落下すると割れて中から種子が現れます。トチノキの実は栗によく似ていて、栗よりも色は濃く、球状をしています。「栃の実」と呼ばれて食用としても知られていますが、毒性があるため加工して食べられてきました。 そんなトチノキの木肌の色は、全体に淡い紅黄白色から淡黄褐色をしています。材面に絹のような光沢があり、リップルマーク(さざ波模様)がみられます。軽軟で木肌は綿密。綺麗な木目がでることが多く、非常に好まれますが、狂いやすく腐りやすいため建築木材よりは家具、器具材、楽器材、椀や盆に使われています。中でも、材面に波状杢や縮杢などがみられる物は工芸価値が高く、器や茶道具の木材として珍重されています。トチノキは木肌に独特の模様を見せるため、木目を見せる「拭き漆」などの技法を用いた作品作りに多く使用されています。しかし、年々手に入りにくくなっており、大皿などに使用するような大きい木材はほとんど手に入らないと言っていいでしょう。また、辻椀木地木工芸でトチノキを扱う場合、ほとんどが「縦木」を使用します。しかし、トチノキの木目を最大限に見せたいのであれば「横木」を使用する方がトチノキの木目の特徴を最も引き出すことができます。トチノキの横木は、荒型(材料)屋さんに注文するか、あるいはWEBで通販などを利用する方法があります。荒型屋さんによっては、縦木、もしくは横木のみを扱っている場合があるため、確認をしながら材料を注文することになります。※横木と縦木の違いについては別の項で触れようと思います。 そのほかの木 上にあげた3つの木以外にも時々好んで使われる木材に「黒檀(こくたん)」があります。「黒檀」はその名の通り黒く、黒褐色をしており、硬く、重さもあり、マーブルのような模様があります。成長は遅く、樹高25m、幹の直径1m以上の木になります。磨くと光沢が出る特徴があります。丈夫で見た目も美しいことから人気があり、仏具などにも使われる高級木材としても知られています。しかし、黒檀も最近では手に入りにくく希少となっています。 木地挽きの技術 受注した椀木地に作家さんや職人さんが、どんな厚さで漆を塗ろうと考えているかによって、木地の薄さを変えることがあります。漆の塗り回数が少ない場合は木地の薄さはあまり求められませんが、輪島塗にみられる布着せ、下地塗、中塗り、上塗りなど何度も塗り工程を繰り返す場合は木地の薄さを求められることもあります。また、「お椀の口(口縁)は薄い方が口をつける時に味噌汁をすすりやすい」などの使い勝手の特徴や、作家さんや塗り職人さんの細かな要望に応えるためには、木地を薄く引く技術が必要になってきます。 左のお椀は右のお椀(ごく一般の椀木地の薄さのもの)比べ、木地の反対側が透けるほど薄く挽いています。ぱっと見た外見ではわかりませんが、口縁を並べてみたり、光に透かして見るとよくわかります。 左:通常より薄く挽いたもの 右:一般的な薄さの椀木地 口縁をアップにすると、左の木地の薄さがよくわかります。 光にかざすと、薄く挽いた木地は光が透けて見えます。 一般的な薄さの木地は光に透けません。 薄く挽いた木地を光にかざすと透けているのがわかります。 一般的な薄さの木地の薄さは約1mmです。 薄く挽いた木地の薄さは1mm未満です。 このように木地挽きは、0.1mm単位の違いで見た目や重さ、細部のデザインに影響し、その後の塗り工程にも影響します。ほんの少しの違いですが、この技術があるからこそ作家さんのミリ単位の要望に応えられるのです。 タグ オーダーメイド ケヤキ はんさ ミズメザクラ 木の特徴 椀木地 轆轤 関連記事 お客様の声オーダーメイド椀木地をつくるなら旋盤よりも轆轤(ろくろ)が良い