辻椀木地木工芸は現在、四代目「辻正尭(つじまさたか)」が一人で営んでいます。
主に漆器の材料となる「椀木地」を製作しています。 一点一点轆轤(ろくろ)で手挽きしており、木地屋にはめずらしくお椀1個からのオーダーメイド木地を受注しています。

「オーダーメイド木地」作りのきっかけ

普通、椀木地屋は「塗師屋」と言われる業者さんからの注文を主としていて、一度の注文で何十個、時には数百個単位で受注します。その場合は見本と同じものを正確に作って一度に納品します。
しかし、辻椀木地木工芸では他ではあまりやらない1個からの「オーダーメイド木地」の注文を受け付けています。その際お客様がどんな木地を求めているかを細かく聞き取りし、 必要なら試作から行います。
1個から注文を受けるということは、個人のお客様に木地を挽くということです。決して楽な仕事のやり方でもなければ効率がいいわけでもありません。
でも、「そうしたい」と強く思うきっかけがありました。

辻椀木地木工芸の危機

現在一人で営んでいる辻椀木地木工芸ですが、以前は祖父と父と3人で仕事をしていました。
供に家業を営んでいた祖父が高齢のため引退し、数年後父が急に他界したことで一人で仕事をすることになりました。急な代替わりです。悲しんでいる暇はありませんでした。

最初は慣れない一人での仕事に納期も遅れ、たくさんの取引先の方に迷惑を掛けていました。自分には父や祖父のような信用もありませんでした。
また、昔からの取引先の無理な注文も断ることができず受け入れている状態でした。それこそ納期が遅れる一番の原因でした。

そこで「これまでの仕事のやり方ではまずい」と考え、仕事のやり方の見直しをすることにしました。

まず、
・納期の見直し(絶対に納品できる納期でしか受けない)
・一人でできる仕事量を見直し(仕事を抱え込まない)
・断りにくいと思っていた無理な納期の注文は断る(割り込み注文は絶対に受けない)
この3つを徹底したことで、それまで考えもしなかった「本当にやりたいと思える人からの仕事」を増やすことができていました。それは漆塗り作家さんからの注文でした。

「オーダーメイド木地」にこだわる理由

「オーダーメイド木地」の注文を受けたいと思うようになったきっかけは、若手の漆塗り職人の会でした。

会で一緒の作家さんから木地注文をもらったことがきっかけで、小ない個数でクオリティにこだわった木地注文を受けるようになりました。

実はそれ以前の仕事のやり方では、お客様とのコミュニケーションが足らず、納品した木地がお客様の思っていたものと違い返品になることがありました。

返品された木地を作り直すことで予定より納期が遅れたり、材料のロスが出ていました。
ここでもまた考えていました。
「自分の仕事のやり方の何がいけないのか?」

その答えは、作家さんの注文を受けるにあたって徐々に気付いていきました。

「これまではお客様が何を重要視しているかに気付けなかったし、そもそも気付こうとしていなかったのでは?」
「でも、これからはそんなことでは通用していかない。今のままでは本当にいいものは作れないし、求められているクオリティには応えられない。もっとお客様が何を求めているのか興味を持って聞いていこう。」
という気持ちに変わっていきました。

それからは、お客様が何を求めているかよく聞くようにし、コミュニケーションを増やすようにしました。そうすることで、「お客様が何を求めているか」以前より聞き出せるようになりました。

最近では、お得意様が何を求めているかがすぐにわかるようになってきました。それでも、聞き取りと確認を徹底して仕事を進めていくことで、お客様に納得していただける木地を納品できるまでになりました。

お客様である作家さんの要望に応えるられるようになるにつれ、作家さんと一緒に作品を作り上げることが喜びとなりました。
大量生産・大量消費の物づくりではなく、漆器本来の良質な一点物を作るものづくりに携わりたいという思いも湧いてきました。

そこで、もっとたくさんの漆塗り作家さんの作品作りの役に立ちたいと思い、「オーダーメイド木地」の注文に特化した椀木地作りを始めることにしました。

長く付き合える木地屋でありたい

漆塗りの産地にある辻椀木地木工芸は、これまで様々な椀木地のご依頼や要望に応えてきました。一般的なお椀の形から、多種多様なものまでいろいろな木地を挽く機会に恵まれております。そして、その経験のおかげで身に付いた技術があります。
しかし、椀木地の世界は「何年やったから、これだけ挽いたから完璧」というものではありません。
また、木地を挽く技術がどれだけあっても、お客様が何を求めているかを聞き出せないと納得いくものは作れません。

辻椀木地木工芸は、お客様としっかりコミュニケーションを取り向き合っていくことで、お客様がご納得できる椀木地を製作し続けることにこだわります。

そして、木地を納品した後も一つ一つの木地に責任を持ち、作家さんひとりひとりと一生をかけて長く付き合える椀木地屋でありたい。そう考えます。

あなたの作家人生を辻椀木地木工芸がサポートいたします。
あなたの大切な作品を一緒に作りませんか?

職人プロフィール​

辻 正尭(TSUJI MASATAKA)

椀木地職人。
石川県輪島市生まれ。
2004年に石川県挽物轆轤技術研修所を卒業以降、実家である辻椀木地木工芸に従事。
現在は一人で椀木地製作を行っている。

「父も祖父も木地職人だったためか、自然とこの道を選んでいました。
椀木地を作る仕事しか知らない僕だから、できる仕事があります。
子供のころから身近に見てきた椀木地の世界で今なお、木の温かみや木目の美しさに魅せられている職人の一人です。」